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桂枝湯証を考える(1)

はじめに
桂枝湯は、中国商代(紀元前1700年〜1100年)の湯王の大臣を務めた伊尹(いいん)が創作したという伝説がある。この伝説は、桂枝湯の長い歴史と重要性を示唆している。
桂枝湯の歴史的背景
『史記』(前漢時代の司馬遷による歴史書)には、「伊尹、滋味を以って湯を説く」という記述がある。また、『漢書』芸文志の『湯液経法』にも、伊尹が神農本草を用いて湯液を作ったという記録がある。
伊尹は元々料理人であったが、その知識を活かして薬物調剤に応用し、湯液療法の基礎を築いたとされる。桂皮、芍薬、生姜、甘草、大棗は古代のスープ料理でよく使われる調味料であり、これらが桂枝湯の材料となったと考えられる。
桂枝湯の重要性
桂枝湯は「群方の冠」と呼ばれ、漢方医学の基本となる処方である。その加減法を学ぶことは、漢方医学をマスターする上で非常に重要である。

桂枝湯の臨床応用
症例1: 56歳女性
主訴: 全身の関節痛、首の痛み、上熱下寒、蕁麻疹、更年期症状
治療: 桂枝湯をベースに、桂皮末と附子末を加えた処方を投与
結果: 全身の関節痛、上熱下寒、蕁麻疹が改善
この症例から、桂枝湯の応用が様々な症状に効果的であることが示唆される。
桂枝湯と補腎
補腎(腎の機能を補う)という観点から見ると、桂枝湯は意外にも重要な役割を果たす。孫思邈の『千金方』では、補腎の代表的な処方として「建中湯」類が挙げられており、その中に小建中湯(桂枝加芍薬湯+膠飴)が含まれている。
江部洋一郎氏の経方医学によると、「気」の第一発電所は「胃」、第二発電所は「腎」である。桂枝は胃気を外方に巡らせ、芍薬は内方に巡らせる。芍薬の量が多くなると腎に向かい、補腎効果を発揮するという。
桂枝湯エキス剤の問題点と対策
桂枝湯エキス剤には、製造過程で揮発性成分が失われるという問題がある。これを解決する一つの方法として、エキス剤に生薬末を加えることが提案されている。
例えば:

営衛不和を治す目的なら、桂皮末と芍薬末を同量加える
補腎を目的とするなら、芍薬末を多めに加える

結論
桂枝湯は、その長い歴史と多様な応用可能性から、漢方医学において極めて重要な処方である。その基本を理解し、適切に応用することで、様々な症状に対応できる可能性がある。今後も、桂枝湯の研究と臨床応用の発展が期待される。